■純恋愛
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第二章 Room302-1
あれから、1ヶ月ほど経っていた。
秋の気配も遠のいて、季節は冬に向かって動き始めている。
うじうじといろんな事を考えてはいたが、結局何も変わることなく、私は毎日を過ごしている。

「悠子・・・ちょっと・・・。」
真奈美が、背後から耳打ちをしてきた。
私は、パソコンのキーボードを叩いていた手を止め、立ち上がる。
時計を見ると、3時になろうとしていたので、ついでにお茶でも入れようと思った。
「給湯室、行こうか。」
「ごめんね・・・。」
真奈美は、今日一緒にお昼に行こうと誘ってくれていたが、9月決算のうちの会社は、10月はその決算処理と日常業務を並行してやらなければならないため、忙しい。
そのため、一緒に休憩をとることもできず、話をする時間がなかった。
私に何か話したいことでもあるんだろう。
いつも社員にお茶を入れる三時になるのを見計らって、声を掛けてきたのだと思う。

真奈美と並んで、給湯室に入った。
真奈美が話したいこと・・・。
あの男のことだろうか。
あれから、その話をほとんど避けていた。
何も言ってこないところを見ると、多分進展もないのだろう。
社員の湯呑みやマグカップを並べながら、真奈美が言った。
「悠子、今週の土曜日空いてる?」
「んー?多分健介が家に来ると思うけど・・・。」
「あ、そっかぁ・・・。毎週泊まりに来るんだもんね。」
真奈美は、首をすくめた。
「例の彼がさ、土曜日会おうって言ってくれたんだけどさ。」
「へ?それで、なんで私を誘うのよ。」
私は、思わず笑ってしまった。
「二人で会えばいいじゃない。」
「いや、それがね、彼の学生時代の友達が長野から来るんだって。それで食事しながら、一緒に飲もうって話なんだけどさ、私一人行ってもなんだかねぇ・・・。」
「ふーん・・・でも、友達と会うのに、なんで真奈美を誘ったのかしらね。」
「・・・私が、けっこうしつこく飲みに連れてけって、言ってたから・・・。」
真奈美は、相変わらず頑張っていたみたいだ。
やっぱり、本気なわけだ。

お茶を入れながら少し考えた後、私が言った。
「・・・いいよ。一緒に行こうか。」
「えっ?ほんとに!?でも、高原くんは?どうするの?」
「お互い用事がなければ会うって感じだから、真奈美と遊びに行くって言えば、多分大丈夫よ。」
「よかったぁ・・・。ありがとう!高原くんには悪いけど、今度埋め合わせさせてもらう。」
真奈美は、手を合わせながら嬉しそうに言った。
「いいわよ、そんなの気にしなくたって。今度の土曜日ね。何時から?」
「6時にルミネ前。」
「わかった。じゃ、これ持ってってね。」
真奈美に、お茶がたくさんのったお盆を手渡した。
「うんうん。今なら、なんだってしちゃう。」
真奈美の、満面の笑み。

私は、残りのお茶がのったお盆を運びながら、考えていた。
いろんな意味で、ずっと気になっていた男との対面。
この一ヶ月あまり、私の中のもやもやの原因になった男。
会ったこともない相手のせいで、こんなにいろんなことを考えたことはなかった。

どんな男なんだろう・・・。

私は土曜の夜を思い、妙なトキメキを感じていた。
どうってことはない、ただ友達が思いを寄せる男と食事をするだけのこと。
今までだって、何度もいろんな友達の彼氏を紹介されたり、一緒に食事をしたりしたことはある。
だけど、今度は何かが違った。

あんなに結婚願望が強く、その対象となる男ばかりを捜し続けてきた真奈美が、片思いなんてまどろっこしい恋愛に夢中になり、しかもその相手は「すごくモテる人」だと言う。

どれほどの男なのか。
単純に興味がある。
真奈美にあんな笑顔をもたらし、夢中にさせてしまうのだから。

私が今まで出会ってきた、いわゆる「モテる男」ってやつは、ただの「女好き」であることが多かった。
確かにルックスはよかったが、話してみれば薄っぺらい物言いの、ただ楽しいだけの男。
長い時間を、一緒に過ごしたいとはとても思えない。
まして、夢中になるほどの魅力も感じたことがない。

真奈美の好きな男も、そんなつまらない男なんだろうか?
・・・でも、25にもなって、そんな男に夢中になるとは考えられない。
年上だと言っていたけど、いくつなのか・・・。
年上の魅力?
ただ年上というだけで、そんな魅力があるとも思えないし・・・。

私の頭の中は、土曜に会うその男のことでいっぱいだった。
なんだか真奈美だけでなく私まで、顔も知らないその男に、別の意味で恋焦がれているような感じだ。
しかし、いつまでもこんなことを考えているわけにはいかない。
一応、こんな私でも今の時期は仕事が忙しい。

私は深く息を吸って、目の前のパソコンに再び向かいはじめた。

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