■純恋愛
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第二章 Room302-3
待ち合わせ場所に着くと、真奈美が私のカーディガンの袖口をぎゅっと掴んだ。
「石場さんだ・・・。彼が来てる。」
「えっ?」
真奈美の視線の先に、確かに二人組の男がいた。
真奈美が、小走りでそこへ向かって行く。
私は、その後をゆっくりと歩いていた。
「石場さん!」
真奈美が声を掛けると、二人組の片割れが笑顔で手をあげた。

・・・あの男か・・・。

長身の、高級そうな服を着た男。
だけど特に派手なわけでもなく、若干若作りなくらいで、普通に育ちの良さそうな男だった。

「悠子、早く!!」
真奈美が興奮気味に、私を呼ぶ。
早歩きで真奈美に追いつくと、石場と呼ばれていたその男は、私に優しく笑いかけた。
「こんばんわ。」
「あ、どうも・・・こんばんわ。」
感じの良さそうな人。
私は、真奈美の方をちらりと見てみる。
真奈美もこちらを向いて、にっと笑った。
「えーと、この子は、私と同じ職場の小川悠子ちゃん。私より3つ年下の22歳。」
「はじめまして。悠子です。」
私は、軽く頭を下げる。
「あ、僕は、石場壮一といいます。で、隣のこいつは、僕の高校時代の同級生で、中島ってやつです。」
「どうも。中島です。」
石場の隣にいたその人は、恥ずかしそうに言った。
「で、この人が、真奈美ちゃん。さっき話してた子。」
石場が、中島に真奈美を紹介した。
「はじめまして。中村真奈美です。」
真奈美は、中島に笑いかける。
「で、石場さん、さっき私のこと話してたって、中島さんに何を言ったんですか?」
真奈美が、石場を睨みつけた。
「いやいや・・。かわいい女の子が来るから、楽しみにしとけって。」
石場が、笑いながら言う。
「ほんとですか?中島さん。」
「ほんとほんと。こんな若くてきれいな人と一緒に食事ができるなんて、長野から出てきた甲斐があったよ。さすが石場だよ。こんな知り合いいるなんて。」
中島が、石場の肩を揉みながら言った。
「じゃ、行こっか。」
石場が、私たちの先を歩き始めた。

私は、真奈美に気を利かせて、真奈美たちより少し後ろを歩きながら中島に声をかけた。
「中島さんて、長野からいらしたんですよね?」
「そうそう。たまたま仕事でこっちに来る用事があったもんだから、せっかくだし、石場と会って帰ろうと思って。」
「石場さんも、長野のご出身なんですか?」
「うん。あいつは高校まで長野にいたんだけど、東京の大学受けたからね。それからは、ずっとこっちにいるよ。」
私と中島が話し始めると、自然と、真奈美と石場が並んで歩き始める形になった。
真奈美は嬉しそうに、一生懸命何やら石場に話しかけている。
「石場さんって、モテる人だって真奈美から聞いたんですけど、そんなに?」
「うん。そりゃもう。昔からなぜか女受けがいいんだよ。やっぱ、物腰が柔らかいというか、女の扱いがうまいというか・・・。見た目はそんなにカッコいいわけじゃないのになぁ・・・。」
中島が、首を傾げる。
中島の言う通り、石場って人は、特別にルックスがいいわけではない。
決して、格好悪いわけではないけれど。
どちらかといえば、中島の方が顔立ちは整っている気がする。
「中島さんもお若く見えるし、けっこうステキだから、モテるんでしょ?」
「いやいや。若い頃は多少はいろいろいい話もあったけど、今となってはね。結婚もしちゃってるし。」
「あ、そっか。そりゃ、結婚なさってますよね。」
私は、少し笑いながら言った。
「東京に仕事で行って、こんなキレイで若い女性と食事したなんて嫁さんが聞いたら、そりゃ恐ろしいことになるだろうな。」
「あはは。食事だけでも、ダメなんですかねぇ?」
「うちの嫁さん、すごいんだよ。ヤキモチが。」
「へぇー・・・。」
見た目は若くても、普通の38歳男性との会話だ。
結婚してて、当たり前。
だけど、私たちの前を歩くあの人は、バツイチだという。
彼の過去にいったい、どんなことがあったんだろう・・・。
私には関係ない話だけど、こういう幸せそうな結婚をしている人の話を聞くと、なんとなく気になる。
「子供さんは?いらっしゃるんでしょ?」
「うん。小学校1年の男の子と3歳の女の子がいるよ。」
「二人もお子さんがいらっしゃるんですか?」
「うん。オヤジだよ、オヤジ。」
「全然そんな風に見えないですよ。」
「うまいこと言うなぁ・・・。」
中島が、照れたように笑っている。
・・・ほんとに、そんな風には見えなかった。
でも、そういういいお父さんが、こうやって若い女と食事したりすることもあるということだ。
真奈美は、そういう年頃の男と付き合いたいって思っているわけだ・・・・。

前を歩いていた二人が、何やらオシャレなレストランに入っていった。
「ここ、石場の店なんだよ。」
中島が言った。
「えっ?」
「あいつ、都内で何軒かこういう店を経営してるんだ。今日、その内の一軒に連れて来てくれるって言ってたから。」
「へぇ・・・。」
実業家か・・・。
確かに女にモテそうだわ。
私と中島も、二人に続いて店に入った。

真奈美は、ちゃっかりと石場の隣の席をキープしている。
私は真奈美の向かい側に座り、その隣に中島が座った。
「おいおい・・・。俺、中島と顔付き合わせて飯食うわけ?せっかく女の子が二人もいるんだからさ、わざわざオッサンの顔見たくないぜー。」
石場が、苦笑いしながら言った。
「失礼なやつだな。久し振りに会った友達に向かってオッサンとは。」
中島は、笑いながら立ちあがる。
「悠子さん、席を代わろうか。」
「え?あ、はい・・・。」
私は別に、どこに座ろうとどうでもよかった。
だけど、中島の勧めに従い、席を交替することにした。
「なんか、うまいもの適当に持って来て。」
近くの店員に石場が言った。
「みんな、飲み物は?最初はビールでいい?」
石場の言葉に、全員がうなずく。
「じゃ、ビール四つね。」
店員が、頭を下げてテーブルを去る。
「ここって、石場さんの店なんですってね。」
私は、向かい側に座っている石場に聞いた。
「そうそう。だから、なんでも好きなもん食って。で、店中の酒飲んでくれてもいいよ。」
「本当か?俺、ほんとに飲むかもしれないぞ。」
中島が、嬉しそうに笑う。
「お前に言ってねーよ。お嬢さん方に言ってるの。」
「どういうことだよ。」
テーブルが明るい雰囲気に包まれる。
「よーし。今日は思いっきり食べて飲もうね!」
真奈美が私に笑いかけた。
「うん。私、今日お昼食べてないからね。」
「悠子、かなり本気入ってきたね。」
「明日休みだもん。食べるし、飲むよ。」
今日の私、そのくらいしかメリットがない。
真奈美の応援してあげるんだし、その分おいしいものを食べたい。
私たちの前に、ビールが運ばれてくる。
「よーし。じゃ、美しいお嬢様方と俺と中島の久々の出会いに乾杯だ!」
石場が、ビールのグラスを持ち上げた。
「乾杯!」
4つのグラスが、同時にぶつかり合って高い音を立てた。

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