■純恋愛
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第二章 Room302-6
私は無言のまま、マンション前の路上で石場と向かい合い、ただ立ち尽くしていた。
「このマンション、駐車場あるの?」
石場は、きょろきょろしながら言う。
「え?あ、この裏に居住者用と来客用のが・・・。」
答えかけて、私は石場を睨みつけた。
「嘘ってなんなんですか?忘れ物なんてしてないのに、何のためにそんな嘘つくの?」
強い口調で、責めるように言った。
「そう言えば、真奈美ちゃんも悠ちゃんの電話番号教えてくれるだろうし、悠ちゃんだって、こうして下まで来てくれると思ったからさ。」
「はぁ?」

何?この男。
私なら、簡単になんとかなると思ったのか?
フリーで、「恋人」という存在を欲しがっている真奈美より、決まった相手がいて、後腐れのなさそうな私に目星を付けたのか?

私の頭の中に、いろいろな考えが渦巻く。
顔を見れば見るほど腹が立ってきて、私は石場に背を向けた。
「用がないなら、帰ってください。忘れ物したって言うから、私は下りてきたんだし。それが嘘なら、私は帰りますから。」
私は、マンションの玄関に向かって歩き出した。
「悠ちゃん、待って。」
石場が私の手を取る。
「嘘ついたのは、悪かったよ。ごめん。だけどね、俺はどうしても悠ちゃんと二人で話したかったんだよ。」
石場は正面に回りこんで、私の顔を覗きこむ。
「俺、悠ちゃんを怒らせてばっかりだね。ほんと、ごめんね。」
「はぁ?」
私はひときわ大きな声で言った。
「あなたがわざわざ怒られるようなことを、進んでやるんでしょ?一体何考えてんの?今までもこうやって、いろんな女をわけわかんない行動で振りまわして、好きなようにしてきたんじゃないの?」
「悠ちゃん・・・。」
「私をどうしたいの?一体私に何を望んでるの?はっきり言いなさいよ!きちんとお断りしてあげるから!!」
そこまで言って、私は深く息をついた。

ふと、真奈美の顔がちらついて見えた。

平凡な毎日の中で、私も真奈美も似たような生活を送ってきていたはず。
ただひとつ、私には恋人がいるという部分だけが、真奈美とは違っていた。
そして、真奈美が一番欲しがっていた「結婚」という目的までも、果たそうとしている。

なのに、真奈美はこの男と出会ったことで、私が持たない「非日常」を手に入れた。
片思いで、結婚なんて決して望めないであろうこの男に夢中になり、「恋人」も「結婚」も手に入れている私よりも、満たされた笑顔で笑う。

「悠ちゃん・・・・・。」
長い沈黙のあと、石場が口を開いた。
「俺は、君が思ってるような目的で、ここに来たわけじゃないよ。・・・そりゃ確かに、そう思われても仕方ないようなことを、よそではしてるかもしれない。」
石場は苦笑いした。
石場の声が、頭の奥で響いている。

私たちは今、あのレストランでの一瞬のように、じっと見つめ合っていた。
あのときのように、私は一言も発せずにいた。
ただ静かに、石場の声に耳を傾けている。

「悠ちゃんと話がしたかったんだ。ゆっくり、俺と悠ちゃんとでしか、できない話をね。」
石場がゆっくりと、近づいてくる。
私は、ぼんやりとそれを見ている。

私も、この人ともう一度会いたかったのかもしれない。
だから、あんなに走ってここまで下りてきたんだ。
忘れ物よりも、この人とここで会うために・・・。

身体の芯が、たまらなく熱い。
全身が心臓になったみたいに、脈を打っている気がする。

石場は、私のすぐ向かい側でじっと私を見つめている。
「・・・コーヒーでも、飲んでいきますか?」

私は石場にそう言って、マンションの中へ入った。

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