■純恋愛
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第四章 To be or not to be-3
仕事が終わった後、私は職場から数駅離れたところまでやってきていた。
デパートで買い物をするためだ。
クリスマスはもう、来週に近づいている。
健介には、キーケースをプレゼントすることにした。
以前プレゼントした財布と、同じブランドのものだ。
買い物を済ませて、店内をブラブラしながら、ふと思いつく。
石場にも、何かプレゼントを用意しておいた方がいいのではないか。
多分、クリスマスには会わないとは思うが、年末に実家に帰るまでには彼と会うこともあるだろう。
閉店まで、あまり時間がない。
紳士雑貨の売り場に行き、あれこれと物色してみる。
しかし、これと言ってピンと来るものがない。

彼に欲しいものなんて、あるのだろうか。
どんな色が好きなのか、どんなものを好んで使うのか・・・。
全く分からない自分に驚いた。
まだ知り合って数ヶ月とはいえ、定期的に会って、身体を重ねあう仲なのに。
いつも会っているときに身につけているものや、聞いている音楽、話していることなどを思い出してみる。
寝室のイメージが強いせいか、パジャマならどうだろうと思い立つ。
家の中で着るものだから、多少趣味と違っても大丈夫だろうし、何枚あっても困りはしないだろう。

店員に案内してもらって売り場にたどりつき、何枚かのパジャマを手にとってみる。
ふと周りに目を向けると、見知った顔をそこに見つけてしまった。

真奈美だ。

真奈美は、一枚のパジャマを手に取って、じっと見つめている。
誰かにプレゼントするのだろう。真奈美が持っているパジャマは、紳士用だ。
やはり、恋人ができていたんだな、と私は思う。
そして、それは多分石場である可能性が高い。
あれだけ入れ込んでいたのだから、今更別の男と付き合ったりはしないだろう。
それに、石場ならば、どんな形であれ真奈美を拒絶することはないような気がする。

しかし、今真奈美が手に持っているパジャマは、多分石場には似合わない。
薄いグリーンのパジャマ。
確かに、悪い趣味ではないが、石場のイメージではない。
どちらかといえば、健介によく似合いそうな色だと感じた。
私は、あのパジャマを健介に買おうかと思ったが、別に今日でなくてもいいだろう。

そっと売り場から離れる。
真奈美と同じものを石場に送るなんて、ちょっとシャレにならない。
きっと、私と真奈美は似たようなことを考えながら、あの売り場に来たのだろう。
そしてそれは、私たちが似たような空間を共有しているということも意味していた。
あの部屋で彼に会い、あの寝室で彼に抱かれる。

不思議と、それに対する嫌悪感はなかった。
むしろ、真奈美と同じ思考回路を持つ自分自身に嫌悪していた。

真奈美は、あの部屋で何を思っているのだろうか。
あの寝室で、私が彼に抱かれていることにも気付いているのだろうか。
私が、あの部屋や彼自身から、真奈美の気配を感じることはなかった。
だから、もしかすると、真奈美も私の存在に気付いてはいないのかもしれない。
あの朝のことは気になったが、私が他の誰かと浮気したのだと思っていたとしても不思議はない。

でも、あの表情、あの行動。

あの日の朝のことが、克明に思い出される。

こちらをまっすぐに向いて立っていた、あのパンプス。
冷たい目で、不敵に笑ってみせた真奈美。

胸の奥が、どす黒く重いもので満たされ始める。
私は、そんな感情を振り払うように、少し早足でそのフロアを後にする。
石場には、何かCDでも選ぼう。
そうだ。
いつも彼の車で流れているような、ジャズがいいだろう。
甘い女性ボーカルのものにしよう。
しかし、いくら頭の中を切り替えようとしても、グリーンのパジャマをじっと見つめていた真奈美の横顔が、瞼の奥に焼きついたまま離れなかった。

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